事業承継

はじめに


現在、中小企業の経営者の高齢化などから、企業の「事業承継」の問題は大きな社会的課題となっています。

当事務所では、弁護士・司法書士の特性を活かし、かつ、税理士等の他士業とチームを組みながら、事業承継問題に取り組んでいます。

事業承継の法務で着目すべき点


中小企業の事業承継の法務においては、「自社株式の承継」を考えることが一つのポイントになります。

会社の経営権の根源は、自社株式にあります。これは、「株式=会社の株主総会の議決権」だからです。

自社株式の過半数を単独で保有していれば、株主総会の普通決議を単独で決議することができ、取締役等の会社役員の選任・解任(監査役の解任を除く)は、株主総会の普通決議で決定していきます。

事業承継対策としては、代表取締役等の役員を次世代の者へ変更するだけでは不十分であり、大株主たる(元)社長が保有する自社株式の承継を考える必要があります。

この対策を怠ると大株主たる(元)社長の相続が発生した後に、自社株式が分散し、その後の経営権争いで取締役等の解任等の紛争を招くおそれがあります。

いつから事業承継の準備を始めるべきか


いつから事業承継の「準備」を始めるべきかは、とても悩ましい問題ですが、法務的には「事業承継の対策は現社長(=自社の大株主)がお元気なうちにスタートしていただく必要がある」とお伝えしています。

この「元気なうちに」という言葉は、法律的に言えば「判断能力があるうちに」ということになります。

判断能力が衰えた段階に至っては、自社株式の移動や遺言書の作成等の法律行為ができなくなり、事業承継の法務的な対策が取れなくなってしまいますので、その前から事業承継対策を進めていただければと考えています。

また、判断能力がなくなると株主総会の議決権行使もできなくなり、会社の重要な決定ができないという困った事態も生じてしまうリスクがあります。

なお、ここでお勧めしているのは、事業承継の「準備」=「対策」を進めることであって、今すぐに経営者を交代しなければならない、ということではありません。

後継者候補者が定まった段階にきましたら、現社長(=自社の大株主でもある)がお元気なうちに(=判断能力があるうちに)、事業承継対策を進めていただければと考えています。 

事業承継の法務のメニュー


実際の事業承継の法務対策は、様々なメニューをオーダーメイドで組み合わせて一つの形にしていきます。

ここでは、いくつかのメニューを簡単にご紹介いたします。


 

(1)社長(=大株主)の生前に自社株式を承継させるメニュー


社長(=大株主)の生前に自社株式を承継させるメニューとしては、自社株式を後継者候補者へ「売買」する(対価を得て移転する)や、「生前贈与」する(無償で自社株式を移転する)ということが考えられます。


適正な価額での売買であれば、前述の遺留分侵害の危険性もなく、また、自社株式の対価が、社長の退職金代わりにもなります。

自社株式を生前贈与するには、贈与税に注意が必要です。自社株式の価値が高く、大きな贈与税がかかってしまうような会社であれば、事業承継税制の贈与税の納税猶予・免除制度の利用も検討します。


(2)社長(=大株主)の相続を契機として自社株式を承継させるメニュー

社長(=大株主)の相続をきっかけにして自社株式を後継者候補者へ移転するメニューとしては、遺言書の作成や、民事信託(家族信託)の利用が考えられます。

遺言書の作成には、遺留分に留意することも重要ですが、遺言書の内容として「自社株を後継者へ相続させる(又は遺贈する)」という内容の遺言書を作成しておくことが有効な事業承継対策になります。

なお、遺言書を用いれば、相続を契機として、親族以外の者(例えば後継者候補の番頭さん)へ自社株式を承継させることもできます。


(3)社長(=大株主)の判断能力に備えるメニュー

前述のとおり、社長(=大株主)の判断能力が低下してしまうと、会社経営が滞り、最悪の場合には、株主総会の議決権行使ができなくなるリスクがあります。

このリスクに備えるメニューとしては、予め後継者候補者との間で任意後見契約を締結しておくこと等が考えられます。

任意後見契約は、本人の判断能力がある内に信頼できる者との間で、「自身の判断能力の低下があったら、任意後見契約を発動させて、自分の財産管理を委ねる(任意後見人に代理権を与える)」という契約を予め締結しておくものです。

この代理権の中に、自社株式の議決権行使も盛り込んでおくという対策をとることが考えられます。

また、この判断能力低下に備えるメニューとしては、近年、注目されている「民事信託」(家族信託ともいいます)を利用し、自社株式を信託財産として、後継者候補者を受託者とするようなスキームを組むことも考えられます。


(4)その他メニュー

事業承継スキームを構築する前提としては、株券不発行会社への定款変更名義株式の解消スクイーズアウトの実施等を行う必要があるケースもあります。
コラム:株券『不』発行会社に変更するには-事業承継の法務(基礎編)-
コラム:事業承継における『スクイーズアウト』の実践的な活用方法

また、その他のメニューとしては、種類株式の活用株式交換や株式移転を用いたホールディングス化、会社分割を用いて事業の切出し等様々なものがあります。

実際のご依頼の際には、様々なメニューを組み合わせて、その会社のオーダーに沿った事業承継対策を立てていくことになります。

 

最後に


事業承継の法務の形は、その会社の形態やオーダー内容によって千差万別です。

事業承継でお困りのことがありましたら、是非ご相談ください。


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