遺産分割時の不動産の価値はどのように考えるか?(固定資産税評価額、路線価、実勢価格など)
2024/01/23
はじめに
相続のご相談時に、とても多くいただくご質問として「遺産分けの時の不動産の価値は、どのように算定するのですか?路線価を基準にするのですか?」というご質問があります。まず、遺産分割の内容は、相続人全員が円満に合意ができれば自由に決めることができるので、合意できるのであれば、不動産の評価をいくらと考えるかも自由です。
では、各相続人が自身の相続分を主張して、家庭裁判所で遺産分割調停等を行う場合の不動産の価値の考え方は、どのような価格を基準にするでしょうか。
結論から申し上げると、家庭裁判所での遺産分割の実務では、不動産の価値は、実勢価額(市場価格)を基準にしています。
しかし、不動産の価値の評価基準には、いくつかの公的な価格があり、また、相続税の世界での考え方と遺産分割の実務上の考え方が異なること等もあって、理解が難しいものとなっています。
本コラムでは、この点について分かりやすく解説させていただきます。
不動産の価額の種別
不動産(土地と建物)の価額の種別としては、大きく分けて、①固定資産税評価額、②路線価、③公示価格、④実勢価格(市場価格)があります。このうち、①固定資産税評価額、②路線価、③公示価格は、国等が算定している公的な価格になります。
①固定資産税評価額…毎年の固定資産税を決める際の基準となる評価額です。これは、あくまで固定資産税を算出して、所有者へ課税するための基準価格であって、実際に売ったり・買ったりする場合の価格(実勢価格・市場価格)とは異なります。
②路線価…相続税や贈与税の算出の基になる土地の価格です。これも、あくまで相続税等の税額を算出するための価格ですので、実勢価格(市場価格)とは異なります。
③公示価格…地価公示法に沿って国等が毎年決定している土地の価格のことです。固定資産税評価額や路線価に比べて、実勢価格(市場価格)に近い価額になっているケースが多いと言われています。
④実勢価格(市場価格)…仮に、その不動産を売ったらいくらで売れるのかという価格が実勢価格(市場価格)です。
遺産分割の実務上の不動産の価値の捉え方は実勢価額(市場価格)
前述のとおり、家庭裁判所において審理される遺産分割の実務的な不動産の価値の捉え方は、実勢価格(市場価格)を基準に考えます。具体的には、まず、その不動産について、仮に売却したらいくらで売れるのかという不動産査定書を、不動産業者に作成してもらい、その価額を実勢価格(市場価格)として、主張することになります。
不動産の査定額には、業者によってはかなりの幅がありますので、可能であれば、複数の不動産業者に査定書を作成してもらうとよいでしょう。
そして、遺産分割の交渉としては、各相続人の弁護士が、それぞれ不動産査定書を出し合い、その中間額を不動産価額と合意して、代償金の計算等をするケースがよくあります。
イメージとしては、次のようになります。
【前 提】
・遺 産 実家の土地・建物/預貯金 1000万円
・相続人 子AとB
【不動産の価格】
・A側の提出した不動産査定書の査定額 3000万円
・B側の提出した不動産査定書の査定額 3500万円
・合意した不動産の実勢価格 3250万円(両査定の中間額)
【遺産分割の合意内容】
1 不動産をAが単独取得
2 預貯金をBが単独取得
3 Aは、Bに対して1125万円を代償金として支払う
なお、遺産分割調停手続において、双方が不動産査定書を提出しても、不動産価格について合意ができない場合もあります。
その場合には、裁判所が選任した中立な立場の不動産鑑定士に、その不動産の実勢価格(市場価格)を鑑定してもらい、その鑑定額に則って審理を進めていきます。
ただ、この不動産鑑定士による鑑定には、かなりの費用(数十万円~)と時間(数か月)がかかるため、可能な限り避けたいところです。
(相続Q&A「遺産分割調停時の不動産鑑定費用は誰が負担するのか」もご参照)
相続税の考え方と遺産分割の実務の考え方は違う
ここで理解が難しい(皆さんが勘違いしている)のは、相続税の計算上は、土地については路線価を用いるので、遺産分割の代償金の計算等においても、路線価を基準にしなければならないと思い込んでしまうことです。なかなか理解が難しいかもしれませんが「相続税の考え方」と「遺産分割の考え方」は、別次元のものと考えてください。
最後に(まとめ)
以上をまとめると、次のとおりです。☑ 相続税の考え方と、遺産分割の考え方は異なることを理解する
☑ 不動産の価値の捉え方には、いくつかの基準がある
☑ 相続人全員で円満に合意ができるのであれば、不動産の価値の捉え方は自由
☑ 弁護士が関与するような遺産分割の実務では、不動産価値は実勢価格(市場価格)で考える
☑ 実勢価格(市場価格)を知るためには、まずは、不動産業者に不動産査定書を作成してもらう
☑ 双方の弁護士が不動産査定書を提出し合い、その中間額を取るような交渉が多くみられる
☑ 遺産分割調停手続において、不動産査定書を提出しても不動産の価格が決まらない場合には、家庭裁判所選任の不動産鑑定士に実勢価格(市場価格)を鑑定してもらうことがある
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