事業承継における『スクイーズアウト』の実践的な活用方法

2022/03/16

第1 はじめに

当事務所で取り組む「事業承継」(会社の次世代への継承)の法務面について、『スクイーズアウト』という手法を用いることがあります。
今回は、このスクイーズアウトの実践的な活用方法についてお伝えさせていただきます。

 

第2 スクイーズアウトとは

まず「スクイーズアウト」とは何かですが、本コラムでは「株式会社における少数株主を強制的に排除する手続き」と定義したいと思います。

スクイーズアウトについては、主に「会社法」に次のような手続きが規定されています。

  ① 特別支配株主による株式等売渡請求手続き
  ② 株式併合を用いる手法
  ③ 全部取得条項付種類株式を用いる手法
  ④ 合併、株式交換等の組織再編を用いる手法

なお、「定款規定に基づく譲渡制限株式の相続人等に対する売渡請求」をスクイーズアウトに含める文献もありますが、本コラムでは割愛させていただきます。

スクイーズアウトは、強制的に排除される少数株主が存在することから、本来的に争訟リスクの高い手続きです。
したがって、スクイーズアウトの実施には、入念な準備が必要となります。

 

第3 スクイーズアウトの必要性・活用場面

中小企業においては、様々な理由で株式が分散しているケースがあります。
株式の分散は、経営の阻害要因となり得るため、必要に応じてスクイーズアウトの実施を検討すべきです。

事業承継の関係では、①M&Aの下準備、②事業承継(親族内承継・親族外承継)スキームを組む下準備等でスクイーズアウトを実施することが多いと考えられます。
すなわち、スクイーズアウトによって、現オーナー社長(大株主 兼 代表取締役)に株式を集中させてから、事業承継のスキームを構築するということになります。

なお、M&Aの場面においては、買収企業がM&A実施後にスクイーズアウトを行うこともあります。

 

第4 スクイーズアウトの種類と各手法の概要

1 特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条以下)

(1)特別支配株主の株式等売渡請求手続きは、議決権の90%以上を有する「特別支配株主」が、他の株主全員(以下「売渡株主」という)に対してその株式等を売り渡すよう請求し、これを強制取得する制度です。

この手続きは、平成26年改正会社法で導入され、株主総会決議を不要とする手続きであることから、利用が進んでいます。

(2)手続きの流れを概観すると次のとおりとなります。

①特別支配株主が対象会社へ売渡請求する旨等の一定の事項(対価の額、取得日等)を通知
②対象会社が売渡請求の承認(取締役会設置会社では取締役会の決議)
③対象会社が売渡株主へ通知
④対象会社は、事前開示書面を本店に備え置く(事前開示手続き)
⑤取得日の到来 ⇒ 特別支配株主が株式を取得(特別支配株主は、売渡株主へ対価の交付)⇒100%株主になる
⑥対象会社は、事後開示書面を本店に備え置く(事後開示手続き)

(3)特別支配株主の株式等売渡請求手続きは、少数株主を強制的に排除するものですから、売渡株主(少数株主)側の対抗手段も規定されています。

主な対抗手段としては、①売渡請求手続きの差止請求、②裁判所へ価格決定申立、③売渡株式等の取得無効の訴えがあります。

(4)特別支配株主の株式等売渡請求手続きのその他の留意点は次のとおりです。

①「特別支配株主」は、自然人、会社その他法人を問わない
②「特別支配株主」は、原則一人(複数人の株式をまとめて90%は×)
③株式等売渡請求は、対象会社の株主全員に対して行わなければならない(特定の少数株主のみを対象とすることはできない)
④交付する対価は、金銭に限定されている

 

2 株式併合を用いた手法(会社法180条以下)

(1)株式併合を用いたスクイーズアウトの手法は、①少数株主が所有する株式が端数株式のみとなるような割合で株式併合し(株主総会特別決議)、②端数株式の合計数に相当する数の株式を売却して、少数株主へその代金を交付する手法(端数処理手続)です。

なお、株式併合を用いたスクイーズアウトは、平成26年改正会社法により法的安定性が担保されたため、従前の「全部取得条項付種類株式スキーム」に代わって、広く用いられるようになった手法です。

(2)株式併合を用いたスクイーズアウトの手続きは、上記のとおり①(株主総会特別決議)と②(端数処理手続)の2段階に分かれます。これを具体的に見ると次のような例となります。

①例えば、株式が50株(株主A)、9株(株主B)、3株(株主C)に分散している会社において、10株を1株へ株式併合する。
これによって、株主BとCについては、それぞれ、0.9株と0.3株という端数株式のみを有することになります。

②その後、会社法235条・234条に規定する端数株式の売却手続き(端数処理手続)を行う。
端数処理手続きとは、具体的には、地方裁判所に対して端数株式を合計した整数の株式について、任意売却許可の申立てを行い、その売却代金をBとCへ交付することでスクイーズアウトを完成させるものです。
なお、株式併合を用いた手法についても、少数株主側の対抗手段があることに留意が必要です。

 

3 全部取得条項付種類株式を用いた手法

全部取得条項付種類株式を用いた手法の典型例は、①既存株式を全部取得条項付種類株式に変更し、会社がその株式全部を取得する対価として、少数株主が端数株式のみ有することとなるように種類株式を各株主へ交付(株主総会特別決議)、②端数株式の合計数に相当する数の株式を売却等し、少数株主へその代金を交付する(端数処理手続)というものです。

この典型例は、株式併合スキームと同様に端数株式を作り出し、この端数処理手続きを行うものですが、全部取得条項付種類株式を用いた手法は、交付対価の柔軟性が認められているため、当該中小企業において債務超過が著しく株価が全く出ないような場合には、交付対価を無償とすることもできるとされています。

 

第5 終わりに

事業承継を行おうとする企業様については、その中で「少数株主を排除しなければならない」場面に遭遇することもあるかもしれません。
スクイーズアウト手続は、スキームの法的精査等を行う弁護士が必須と考えられますので、もしスクイーズアウト実施の必要性がある場合には、是非当事務所へご相談ください。


◇ 横浜で事業承継問題に強い弁護士をお探しなら、当事務所へご相談ください!
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