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夫婦間での居住用不動産の生前贈与等の持戻し免除の意思表示の推定(平成30年改正相続法シリーズ)

2020/02/05

平成30年改正相続法により、婚姻期間が20年以上の夫婦間でされた居住用不動産の生前贈与等について、いわゆる持戻し免除の意思表示を推定する規定が設けられましたので、本コラムでは、この改正について解説いたします。

まず、相続人に対する大きな生前贈与等は、特別受益となり、被相続人からの遺産の前渡しがあったものとして、その贈与額は遺産額に持ち戻したうえで、受贈者たる相続人の遺産分割時の取得分から控除するという計算をすることとなります。

そうすると、生前贈与等を受けていた相続人の、遺産分割時の取得額は少なくなりますが、被相続人が特定の生前贈与等の額を遺産の価額に含めない旨の意思を表示していた場合(これを「持戻し免除の意思表示」といいます)には、この意思表示に従って、生前贈与等の額の遺産への持ち戻しはしないということになります。

この点、長年連れ添った夫婦間で居住用不動産の生前贈与等があった場合には、それは通常は、配偶者の長年の貢献に報いるとともに、配偶者の老後の生活保障の趣旨でされた生前贈与等だろうと推測されるとの考え方を基に、20年以上の婚姻期間の夫婦が配偶者に対して居住用不動産の生前贈与等をした場合には、上記の持戻し免除の意思表示が明示的になされていなくても、これがあったと推定すると規定されることとなりました(民法903条4項)。

遺産分割の事案においては、生前贈与等が特別受益に当たるのか・特別受益に当たるとして持戻し免除の意思表示があったのか否か、争点となることが多々あります。

今回の改正によって、上記の要件を満たす夫婦間での生前贈与等については、持戻し免除の意思表示があったことが推定されますので、実務的には大きな改正であると考えられます。

なお、遺言書等で明示的に、上記と異なる意思を表示していた場合には、その意思が優先されることとなりますので、もし何等かの事情で、配偶者へ居住用不動産を生前贈与しているが持戻し免除はしたくないとの意思を有している場合には、その旨を明示しておく必要があります。



 
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

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