相続放棄の手続きについて/法定単純承認になる場合とは?

2019/06/07

今回は、相続放棄手続きと法定単純承認の関連性について解説します。

相続が発生した場合に、その被相続人の財産等を処分する等した場合には、そのことをもって、相続について承認したとみなされる場合があります。

これを相続における法定単純承認といいます(民法第921条)。

もちろん、相続を受よう(承認しよう)と考えている方は良いのですが、相続放棄又は限定承認をしようと考えている方は、法定単純承認とならないよう十分に注意が必要です。

どのようなことをすると、法定単純承認になってしまうのかの判断は、大変難しいものですので、安全策としてのアドバイスは、「相続放棄又は限定承認しようと考えているのであれば(もしくは既に相続放棄又は限定承認の申述をしたのであれば)、被相続人の財産には一切手を付けない」というアドバイスになります。

要は「財産関係については何もしない方がよい」というアドバイスになりますが、現実的にはそうも言えない状況もあります。

どのような場合に、単純承認とみなされてしまうのか、みなされないのか、について考えていきましょう。

(ⅰ)いわゆる「形見分け」
被相続人の持っていた動産を相続人で分けることを「形見分け」と言いますが、「形見分け」をした場合に、法定単純承認となるかはケースバイケースで裁判例も分かれています。財産的価値のあるものを形見分けすると、法定単純承認と認定される可能性が高まるので注意が必要です。

〇 和服15枚、洋服8着、ハンドバッグ4点、指輪2個を相続人の一人に引き渡した行為が「処分」に当たるとして、単純承認とみなされた事例(松山簡易裁判所昭和52年4月25日判決)

〇 着古したズボンを元使用人に与えた行為が法定単純承認には当たらないとされた事例(東京高決昭和37年7月19日)

〇 背広上下、冬オーバー、スプリングコート、椅子2脚を得たことは法定単純承認に当たらないとされた事例(山木地地裁徳島支部昭和40年5月13日判決)

(ⅱ)葬儀費用の支出
被相続人の葬儀費用等を相続財産から支出した場合には、法定単純承認となるか、という点も過去問題になっています。
これに対しては、「被相続人に相当の財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない」として、法定単純承認と認めなかった大阪高裁平成14年7月3日決定が参考になります。
全てのケースで、葬儀費用を故人の遺産から支出することが法定単純承認とならないわけではないと思われますので、注意が必要です。
私見ですが、社会的常識に反するような過大な葬儀費用の支出をした場合には、法定単純承認と認められてしまうものと考えられます。

(ⅲ)賃貸契約の解約
外によく相談があるケースとしては、故人が賃貸アパートを借りていて、死亡後に家主から相続人に対して、早く室内をきれいにして明渡せと請求を受けるケースがあります。
相続人としては、道義的には、家主の求めに応じなければならないと考えると思いますが、相続放棄をすると考えているのであれば、慎重に行動する必要があります。
この点については、相続放棄を早期にして、後は次順位の相続人に対応を任せる方が無難といえるでしょう。

相続に関しては、判断に迷う場合が多々あると思います。
迷った場合には、是非ご相談ください。

【参照条文】
民法
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
 二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
 三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

 

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